ディーゼル暗黒時代

「失われた10年」の真実

 1997年、ドイツの電装トップメーカー、ボッシュが新世代ディーゼル用コモンレールシステムを実用化した。噴射圧1,400気圧で微細断続噴射が可能なこの燃料噴射システムは、欧州において内燃機関の歴史上革命的な出来事としてとらえられた。※(参考)

 1999年、日本で某都政代表の大号令の元、突如ディーゼル全面規制が宣言される。これにより日本の乗用ディーゼルはほとんど絶滅し、ディーゼル暗黒時代の幕開けとなる。

 2001年11月、悪名高い10・15モード燃費基準値が施行される。この燃費基準、前年までの10モード燃費値に比べ全体的に1〜2割甘い数値になるのはもちろん、ハイブリッドに殊の外有利な値を提供する。企画立案されたのは、おそらく数年前の事であろう。※(参考)

 この一連の時事が何を物語っているのか紐解いていくと興味深い事実が浮かび上がってくる。

 ディーゼル技術の大幅な遅れを招いたハイブリッド政策の立て直しを含め、開発期間を稼ぎたいメーカーの思惑。ハイブリッドを出来るだけ売り続けることでそれまでの多額の開発費回収を目論む大手自動車メーカーの事情。莫大な広告費を献上されてスポンサーに不利な情報を事実上流せないマスコミ等出版各メディア。都市部幹線道路での喘息訴訟で敗色濃厚の旧世代ディーゼル開発メーカーのジレンマ。年間3兆円超と言われるガソリン税収の減少を恐れる道路族議員と関係各省庁。ガソリン車とハイブリッド車が(欧州ディーゼル勢に対して)いかにも燃費が良さそうに見える燃費基準値のトリック。ガソリンと軽油の生産バランスが急に崩れるのを嫌うオイル業界の思惑。

 突如黒船が来襲した事により日本政府と産業界が取った行動とは、何の事はない「鎖国」したのだ。結局今も昔も日本人の本質は変わらないと言う事になる。※(参考)

  この「失われた10年」は日本にとってまさに暗黒の10年だったと言える。ここ10年の間にディーゼル大手のいすゞは乗用車市場から撤退し、SUVの強かった三菱色は今は見る影もない。ガソリン税徴収目的で燃費の悪いガソリン車を買わされ、詐欺同然の燃費表示でハイブリッドを買わされるのは誰であろう。そのつけは何も知らされていない一般庶民が全て背負う事になるのだ。暗黒の10年間に、欧州メーカーがラインナップしたディーゼルユニットの数たるや凄まじい物がある。如何に日本メーカーが誇る技術力で頑張ったとしても、挽回するのは容易な事ではないだろう。自動車のエンジンは1機3〜6年、かそれ以上の開発期間を要する。
※(参考)

 時は瞬く間に流れ 2009年、ついに新世代ディーゼルが日本でも発売されようとしている。表面上マスコミを利用したハイブリッド政策を全面展開し、水面下でディーゼル開発を急ピッチで進行中の某巨大メーカーも含め、国内メーカーは今後、堰を切ったようにディーゼル攻勢を仕掛けてくるだろう。※(参考1)(参考2)

 殆ど進化の止まったガソリンエンジンに比べ、最新ディーゼル技術の要、コモンレールシステムは凄まじい勢いで進化を続けている。既にその噴射圧力は2,200気圧に届こうかという勢いだ。最新ターボディーゼルはプリウスの燃費を優に超え、3L NAガソリンに匹敵する低速トルクを併せ持つジギルとハイドの二面性を獲得している。「ディーゼルは多少燃費はいいが遅くて汚いものだ」と言うこれまでの一般常識を根底から覆す、まさにパラダイムシフトと言うべき劇的な変化だ。
実燃費17km/Lのプリウス モーター補助で出だしは軽快だが、1.3L並みの動力性能となる高速域ではモーター、電池が重りとなり燃費が落ちてしまう ※(参考) 実燃費はECEモードテストの85%
実燃費19.8km/L 25.5kgm/1900rpmのトルクを誇るVWの最新BlueMotionディーゼル ※(参考) kombiniertの85%
レギュラー換算で実質22.8km/L、ハイオク換算ならなんと24.3km/Lも走る計算になる ※軽油をガソリンと同価格と考えた場合
今まで事実上ハイオクオンリーだった輸入車ユーザーは特に考える時期ではないだろうか
 VWのガソリンTSI技術にしても、元々の出所はディーゼルの直噴ターボ技術から来ている。そして同社の革新的変速システムDSGも元々は、大トルクだが回転許容範囲の狭いディーゼルエンジンの低回転で頻繁に変速を繰り返す特性にベストな伝達装置として開発された経緯がある。今後、ディーゼルをラインナップするメーカー各社での採用が広がって行くと思う。と言うか、唯一にして最適な変速装置と言っても過言ではない。

 DSG(ツインクラッチAT)の変速タイムラグは、0.03秒〜0.04秒、つまり全段変速し終えても0.3秒足らずしか掛からない事になる。その次の次のギヤの待機時間があるのでそうならないとは思うが、現在最速なのは間違いないだろう。その変速フィーリングはこの上なく気持ちの良い物で、クックックッ、と全くと言っていいほどタイムラグが感じ取れない。仕組みを知らない人にとっては変速装置がある事さえ忘れてしまうほどの出来映えだ。※総合効率 85%(6速DSG) 91%(7速DSG) 94%(6速MT)
 
  MQ250 6-Gang --- 6速MT(VW製)
  AQ250 6-Gang --- トルコン6速AT(アイシンAW製)
  DQ250 ------------ 6速DSG(湿式クラッチ)VW製
  DQ200 ------------ 7速DSG(乾式クラッチ)VW製 ※資料(P42)

 
  トルコンATは、トルクコンバーターのスリップロスと変速タイムラグで最新ディーゼルとのマッチングは最適ではない。そもそもトルクコンバーターとは名前の通り低回転でのトルク不足を回転エネルギーの変換で補うもので、低速トルクの豊富なディーゼルにはあまり必要の無いものだ。低回転でのトルクが比較的細く実用回転域が広いガソリンエンジン向きの伝達装置と言えるかも知れない。その分コンバート時のロスで燃費は悪くなってしまうが。※総合効率 83%(6速AT)
6速MTを100とした場合の燃料消費率 ※資料(P43)
 トルコン6速AT --- 105〜115%
    6速DSG ---- 95〜103%
    7速DSG ---- 88〜 93%  ※DSGの効率の良さに注目
 ベルトCVTもまた、ディーゼルの大トルクには不向きで効率も悪い。スチールベルトとプーリー間の線間密着力は大排気量車のトルクには耐えられないし、ベルトの回転半径が極小になる高速燃費は滑り損失と摩擦抵抗が増加してかなり悪い。数値にして効率は75%にまで落ちる。高速移動が多い欧米で一向に採用率が増加しないのはそう言う訳だ。※総合効率 低速85%、高速75%

 新世代ディーゼル元年と言うべき2009年を間近に控え、一般庶民である我々に出来る事は何であろうか。思惑の交錯、既成事実の縛りにより変革を声高らかに宣言出来ない自動車会社や政府マスコミはあてに出来ない。我々庶民が必要としている車とは何か、見せかけの数字に踊らされる事のない経済的で実用的な真のベーシックカーとは何か。今こそ、一般庶民である我々自らが一大ムーブメントを起こす時期ではないだろうか。そうする事でより市場が活性化し導入が早まるのは間違いない。時代が求めているもの、それが新世代クリーンディーゼルであり、DSG的ツインクラッチATなのではないだろうか。







:高原 暢夫

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